Research

海馬や、関連する脳領域 (大脳皮質・視床・視床下部・線条体・扁桃体・前障など) を対象として、記憶や空間認識などの高次脳機能をささえる神経回路メカニズムを調べています。

空間表象の生成メカニズム

「いま自分がどこにいて、どこに向かっているのか」という空間認識は、動物の生存にとって重要な脳機能です。海馬には、空間のなかで動物のいる場所をしめす場所細胞がたくさん存在します (日本語総説)。また、嗅内野などの領域に頭の向きや移動スピードなどの情報をもつ神経細胞がおり、こうした細胞群空間認識や記憶を支えていると考えられます。しかし、これらの神経細胞の持つ情報が、どのような分子・細胞・回路の仕組みによって生み出されるのかは良く分かっていません。私たちは、げっ歯類における大規模な神経活動計測に、ウイルスベクターによる遺伝子改変を組み合わせて、この問題に取り組んでいます (Kitanishi et al., Neuron, 2015; 日本語解説)。

海馬の場所細胞の生成メカニズム

海馬と海馬外の領域間情報伝達

海馬は、海馬台や嗅内野を介してさまざまな脳部位と情報をやりとりすると考えられます。しかし、海馬と外部領域との相互作用は広範な神経ネットワークを含み、その実態は良く分かっていません。私たちは、海馬の持つ多様な空間情報が、海馬台を介して、下流の脳領域群へと分配される情報伝達の様式を明らかにしました (Kitanishi et al., Sci Adv, 2021; プレスリリース)。これは、海馬から外部領域への情報の流れを捉えた初めての研究です (総説Mizuseki and Kitanishi, Curr Opin Neurobiol, 2022)。また、前障という脳領域が嗅内野に密に投射して記憶を調節することを発見し、この経路の機能解明をすすめています (Kitanishi et al., J Neurosci, 2017)。 

海馬から海馬外への情報の流れ

シナプス可塑性

なにかを記憶するとき、その情報は脳のどこに保存されるのでしょうか。ひとつの有力な説は、シナプスの構造変化 (可塑性) により情報が蓄えられるというものです。この説が正しいとすれば、学習中にすばやくシナプスの構造変化が生じるはずですが、こうした実例は長らく報告されていませんでした。私たちは、学習に活動する海馬の神経細胞は全体のなかの一部であることに着目し、これらの細胞ではシナプスの構造がすばやく変化することを発見しました (Kitanishi et al., Cereb Cortex, 2009)。こうした、活動細胞に選択的なシナプス可塑性が、学習の基盤となっている可能性があります。また、認知症モデル動物におけるシナプス病態などの研究もおこなっています (Kitanishi et al., Genes Cells, 2010; Kitanishi et al., Eur J Neurosci, 2009; Chen et al., Neurobiol Learn Mem, 2007)。 

海馬の錐体細胞

実験技術

私たちの研究室では、生体脳における大規模電気生理計測と、ウイルスベクターを用いた光操作・遺伝子改変おもな手法として用いますくわえて機械学習・分子生物学解剖学など、多様な手法を活用します。また、技術の開発も積極的におこないます。これまでに、脳情報の分配の網羅的追跡法 (Kitanishi et al., Sci Adv, 2021) や、シナプス入力を統合する神経細胞への遺伝子導入法 (Kitanishi et al., Commun Biol, 2022)、経路選択的光操作法 (Kitanishi et al., J Neurosci, 2017) など開発してきました。最近では、バーチャルリアリティや、脳と機械を接続するブレイン・マシン・インターフェース (BMI) の開発にも取り組んでいます。

多点電極による大規模神経活動計測